CHSH不等式(3)

復習しよう。

Alice と Bob は仲間で協力する。彼らは相談した後に別室に入る。彼らはこれ以降、相談できない。
すると審判がおもむろに、さいころを振り Alice に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を a とする)を渡す。もう一度、さいころを振り、Bob に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を b とする)を渡す。Alice と Bob は別室でよく考えて、それぞれ 0 か 1 の書かれた紙を審判に渡す。(Alice Bob の返事をそれぞれ α β とする。)
このときに、a * b が 0 の場合は α != β ならば勝ち、a * b が 1 の場合は α == β ならば勝ち、そうでなければ負けだとしよう。

これが問題だ。

そして、Alice は審判から 0 が来たら「12時方向」に、1 が来たら 「3時方向」に観測し、Bob は審判から 0 が来たら「1時半方向」に、1 が来たら 「10時半方向」に観測する。

これが作戦であった。
さて、審判が(a,b) = (0,0) と送った場合、「12時方向」と「1時半方向」だから、異なる答えを返す確率は\large \cos^2(\frac{\pi}{8})85%だ。(a,b) = (0,1) と送った場合、「12時方向」と「10時半方向」だから同じく85%だ。(1,0) でもそうで、(1,1)の場合は「3時方向」と「10時半方向」だから、同じ方向が\large \sin^2(\frac{3\pi}{8})で85%。

結局、全体で 85% の確率で勝てることが分かった。


さて、これは何を意味しているのだろうか。古典的には Alice と Bob はどんなに入念に作戦を立てたとしても、75% を超える確率で勝てるはずがなかった。ところが EPR対を交換しておくだけで、85%まであげられた。

これはあたかも、片方から片方にどのように観測したかの「情報」が飛んだかのように見える。しかし話はそう簡単ではない。たとえば、相対性理論によればどっちが先におきたか、という概念は見る人によることがある。そのような位置関係に Alice と Bob がいるときにそれぞれが EPR対を観測したらどうなるだろう。ある人は Alice から Bob に情報が飛んだというし、別の人は逆だ、という。これはおかしなことだ。

ここには相関があっただけで、情報は何も飛んでいないのです。
そして、これを説明するためには、「上」と「下」の重ね合わせられていた状態が観測した瞬間に収縮したという考え、あるいはそれに準ずるものを認めないといけないのが分かるでしょう。
(おわり)
((0) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p3)
((1) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8)
((2) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p11)
((3) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p13)