CHSH不等式(2)

スピンとは何かという質問はとても難しい。これは素粒子にある「ある属性」を指す。「位置、速度」を決めただけでは素粒子の状態は決まらず、その決まっていない自由度の一つが「スピン」というわけだ。身近なところでは、鉄が磁石にくっつくのは鉄の中のスピンが揃うせいだ。
ある種の角運動(回転のこと)のように思えることから spin という名前がついたのだろうが、これを回転だと思うことは僕はあまりよろしくないと思う。そして、あえて答えるとすると、場の量子論が一つの答えだすかもしれない。相対論と量子論とを一番簡単な形で融合させただけで出てくる、二つのものを区別する本質的な何か。


でも、ここではそんなおどろおどろしいものは必要がない。これからの述べる事実を受け入れて欲しい。

スピンというのは「ある方向」で観測することが出来る。ようするにどこにあるかを見ることが出来る。たとえば、時計の(12時-6時)の方向で観測すると、12時の方向にスピンがあるよ、6時の方向にスピンがあるよ、のどちらかが分かる。たとえば12時の方向にスピンがあるときに、(3時-9時)方向に観測すると、50%ずつの確率で3時、9時の方向にスピンがでてくる。

さて、電子を二つ組み合わせて「電子のEPR対」というものを作れる。
この「対」を分けてそれぞれ離れた場所にもって行き、片方を観測するとどんな方向で観測しても半々の確率で出てくる。たとえば、(3時-9時)の方向で観測すると、50%で3時、50%で9時だ。

ところで「対」なのだから、二つ観測できるものがある。まず、両方とも(3時-9時)の方向で観測してみよう。そうすると、片方が3時の時には、もう一方は必ず9時になる。*1
では、一方を(3時-9時)、一方を(12時-6時)で観測したとしよう。片方が3時と出たときに、12時、6時は 50%ずつの可能性で起きる。9時のときも同じだ。

ここで、(3時-9時)の方向を「3時の方向」、3時と出ることを「上」とでる。9時と出ることを「下」とでる。と呼ぶことにしよう。つまり、両方とも「3時の方向」で観測したときには、片方が「上」ならばもう一方は「下」。そして片方が「下」ならばもう一方は「上」。と、必ず逆方向になる。そして、片方を「3時の方向」もう一方を「1時の方向」で観測したときにはどうなるだろうか。実は、逆の向きになる確率は「1時と3時の間の角」を \theta として \large \cos^2(\frac{\theta}{2}) になるのだ。三角関数分からないっていうならば、図形的にいうと、半径1の時計の1時と3時の目盛りのところを直線で結んで時計の中心から垂線を下ろす。その垂線の長さで作った正方形の面積分。同じ向きになる確率は、\large \sin^2(\frac{\theta}{2})、つまり、1時と3時の目盛りの距離の半分が一辺となるような正方形の面積になる。
まあ、そういうもんだと思って。これは量子力学っていうのが正しかったら正しい。そんでもってこいつはかなり大量の実験に裏打ちされているから、あってるんだ。


とりあえず、答えからいこう。まず、Alice と Bob は初めの作戦会議で EPR対を分け合う。
そして、Alice は審判から 0 が来たら「12時方向」に、1 が来たら 「3時方向」に観測し、Bob は審判から 0 が来たら「1時半方向」に、1 が来たら 「10時半方向」に観測する。そして、それぞれ上が来たときに1を下が来たときに0を返す。


さてさて、みなさんおたちあい。
何も情報が伝わっていないのに、あたかも何かが動いたかのように見える。量子テレポーテーションが起きるよ。*2
(続く)
http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p13
((1) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8)

*1:あとの都合により普通と逆にした。

*2:ちょっと不正確なので修正。