シュレディンガーの猫

Look, everybody, we're all looking for answer, you know. We all want to understand who we are and where we come from, but... soemtimes we want to know the answers so badly that we... believe just about anything.

South Park Episode 912 Trapped In The Closet - Stan

ほら、僕達はみんな答えを求めてるでしょ。僕達は一体何で、僕達はどっから来たのか。でも、時には答えを求めるあまり………ほとんど何でも信じてしまうんだ。


VOODOOな理論達:平成の万能大学者VOODOOな理論達:いいセンいってる南堂久史さん 経由で知った http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/physics/catwjs.htmシュレーディンガーの猫の核心 by 南堂久史」なのだけれども、はてなブックマークがこんなひどい状況。

300人以上がこのシュレディンガーの猫の話をころりと信じたら、僕も少しは行動しなきゃいけない気になりますよ。ひとつ上の記事も、郡司さん・野矢さんは何を考えているかまじめに考えて自分が得るところがあると思いますが、南堂さんはそういうところが感じられないから、いままでも南堂さんのことを記事に何度かしていますが、それでもあんまり考察したくないっていうのが正直なところではあるのですが。
え、これでご本人は「数学的に等価」を名乗っているのか。う〜ん。分からん。


まず、相対主義に逃げられてしまいそう、なので抑えておきます。つまり、僕の文章も彼の文章も、対立する二つのもので「50:50の重みで合わせて読むことで中立的な観点が得られる」と思われることへの恐れです。
物理学は自然を記述する学問です。記述するときに、数式と自然言語を使います。
もちろん、人間ができることは、あくまでもすべて記号を操作することです。僕が量子論を正しいと思っているのも、もしかしたら、騙されているだけで、量子論でしか説明できないといわれてやった実験も実は測定器が教授の部屋に無線ランで繋がっていてその出力を見ていただけかもしれない。あるいは、この世の中は映画マトリックスのようなものなのかもしれない。
でも、実験を繰り返して、そうして少しずつ自然を記号で記述していって、その結果、ものすごい精度で未来を予測できるようになりました。物理学がようやく軌道に乗って発展しだしたのは、奇跡の年、わずか100年前です。
その成果が、たとえば、集積回路だったりディスプレイだったり化学繊維だったり。乳児死亡率だってこんなに下がった。安全な水が飲めて。


実にすばらしいじゃないか。


たしかに、自然科学の智を利用して科学技術が産み出した数々のものは人が扱うにはあまりにも強力だ。それは人類を滅ぼすだけの力があるであろう。それでも、理性的にあることで、3人に1人が成人できず、無知のため恐れて迷信にすがっているよりも、ずっといい世界が待っていると信じている。


ここからは学科の某君と話した結果でてきた説明方針。しかし、彼は量子力学勉強していない人間がシュレディンガーの猫を分かろうとしても無理だ、とはっきりといった。だけれども、僕は何とかなると思っている。それに僕も彼もシュレディンガーの猫には全く不思議さを感じないわけで、そこを説明するべきであろう、と僕は考える。
恐らくだけれども、量子力学的な確率が古典的な確率と「全く違う」ことを言わなきゃいけなくて、そのためには純粋状態と混合状態の説明をするしかない。

一応、あらすじはこうなる。ここのところを読むだけでも、十分な説明になるようにしたつもりだ。

  1. 生と死の重ね合わせというのは、別に半分死んで半分生きている、という意味ではない。二つの状態が重なり合っているということだ。
  2. たぶん、物理に世の中の仕組みのような真実を求めているのだと思うけれども、物理学は未来予測しかしない。だから、どうしたらどうなる、ということは教えてくれても、世の中がどういう風に出来ているかという「深遠な真実」は教えてくれない。
  3. ただ、ある程度、この宇宙でおきうることを見せてくれるから、そんなことおき得ないというナイーブな考えは否定される。シュレディンガーの猫によって否定されるのは「マクロなスケールの実在」だろう。
  4. たしかに、量子力学の予言する現象を直感的に理解するのは非常に難しい。これは実にしかたがないことだ。なぜならば、我々が直感的に分かることは、しょせん、1m前後の大きさのことだけで、動きもとろい。ジェット機ですら光の速度の何分の一だろうか。そこで得た常識はたいしたことない。たとえば、中世のヨーロッパでは弓矢は、真っ直ぐ飛んであるところでストンと落ちていたらしい。今の我々からすると直感的にそんなわけないですね。でも、そう思い込めば誰もがそうなっていると信じてしまうものなのだそうです。実際、僕のゼミの大学教授には「慣れれば自然だよ」と述べた人もいる。
  5. ミクロな世界での不思議な現象が、シュレディンガーの猫によってマクロにも移すことが出来る。
  6. 電子は粒子だ、といったときに、たしかにビー玉の粒のようなものを考えていると、そういうものではない。日常用語の粒子から、かなり拡張を受けている。
  7. 解釈問題というのは自然科学の問題ではない。ただ、直感的に自然言語で説明しようとすると、おかしな状態になっているということをいったものだ。
  8. 量子論自体に矛盾はない。ここでいう矛盾とは、ある状況設定をしたときに「異なる未来予測」をするという意味だ。
  9. 僕が思うに、世の中がどういう風に出来ているかという「深遠な真実」なんて、ないんじゃないだろうか。あるとしたら、どうすればどうなる、ってことだけで。


さて。実は、量子論の確率には「二種類」あります。片方は普通の確率だと思ってよいでしょう。けれども、残りの片方が、コペンハーゲン解釈といわれる「ふたを開けた瞬間に波動関数が収縮する」と解釈に物理学者たちを追い込んだのです。

この二つは、

  • 「一時間前に猫が死んだ」ということが「今分かった」。
  • 「一時間前に猫が死んだ」ということが「今決まった」。

の違いだとも言えるでしょう。

なぜ、「今分かった」だけではだめで「今決まった」でないといけないか。それはベル不等式(CHSH不等式の一種)が説明してくれるでしょう。このベル不等式の破れは確かに「不思議」。
詳細は省きますが「開けるまで決まっていない」としない、どんな(局所的な)やり方でも実験と計算が合わなくなるのです。
たしかに、一応、局所的でないという抜け道はありますがそうすると、超光速で「何かが走って」つじつま合わせをしているか、ランダムに選んだつもりが誰かに選ばさせられていたか、ということになるのですが、それぞれ、人間には絶対出来ないようになっているけれども「何か」は超光速で走る(これは因果律が崩壊することを意味しています)、粒子は大局的な視点から行動している、かのように思う羽目になるのです。そして、これは大抵の人に受け入れられないでしょう。

もうひとつのエヴェレット解釈は多世界解釈とも呼ばれていて、宇宙全体の「状態」を考えると、その「状態」がどんどん「重ね合わさっていく」というものである。ありとあらゆる状態、たとえば「ナポレオンが Waterloo で勝利した」状態もその中にある。実際は負けているわけで、そんなの変だよ、とよく言われる。もっとも、これは丁度、解析力学でばねの先におもりが繋がったあらゆる状態をまとめて考える、だとか、統計力学で実際は取ってもいない取りうるあらゆる状態に対して期待値を求める、だといったように、これは別に初めて聞く人が思うほど不思議ではないのです。けれども、これがために、実在の考え方ができない、という気持ち悪さがなくなるわけではないと思います。


皆様。こんな感じでどうでしょう。
追記:http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710#p3 からベル不等式の破り方書いておきました。