CHSH不等式(0)
さて、ベル不等式を破って見せる、といって放ってあったので、とりあえず、量子力学が古典とは決定的に違うことを説明しよう。
恐らく紙とペンが必要と思われるので用意して欲しい。簡単な確率の知識は既知とする。まあ、分かんなかったら聞くなり高校の教科書を開くなり。
次のようなゲームを考える。
Alice と Bob は仲間で協力する。彼らは相談した後に別室に入る。彼らはこれ以降、相談できない。
すると審判がおもむろに、さいころを振り Alice に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を a とする)を渡す。もう一度、さいころを振り、Bob に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を b とする)を渡す。Alice と Bob は別室でよく考えて、それぞれ 0 か 1 の書かれた紙を審判に渡す。(Alice Bob の返事をそれぞれ α β とする。)
このときに、a * b が 0 の場合は α != β *1ならば勝ち、a * b が 1 の場合は α == β ならば勝ち、そうでなければ負けだとしよう。
さて、Alice と Bob はどういう作戦をたてれば、よいであろうか。
まあ、ちょいちょいと考えてください。勝つ確率が75%を超えないことを理解してくれればよいです。(続く)
http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8
((0) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p3)
((1) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8)
((2) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p11)
((3) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p13)
*1:等しくないってこと!
論理回路
AND, OR, NOT, NAND, NOR, XOR
このあたりの話を知らないというので語ってあげた。
NANDの全能性 と Adder と flip flop くらいまで。
いや、まあ、なんだ。苦労して Half Adder 作ってるの見て思ったが、学問って偉大だね。
CHSH不等式(1)
なんというか、とりあえず、古典的な場合の解答編になるわけだ。
Alice が、作戦 X と Y をある確率で混ぜ合わせる作戦 Z をとったとしよう。作戦 Z の勝利確率は X の勝利確率と Yの勝利確率のあいだになる。だから、こういう作戦 Z のようなものはありえない。
だから、結局、最善の作戦は Alice の書く数字は a だけに、Bob の書く数字は b だけによって決まっているんだ。
ここで、審判は (0,0)、(0,1)、(1,0)、(1,1) の 4 通りを 25% ずつの確率でどれかを送る。上のような作戦のとき、送られ方ごとに勝ち負けはもう決まっているから、勝利する確率は 25% の整数倍になるに決まっている。つまり 0%, 25%, 50%, 75%, 100% のどれかだ。100% にできないのはちょっと考えれば分かって(a == 0 のとき、α が 0 でも 1 でも、b が 0 のときも 1 のときも βが 「αと逆」にしなくてはいけなくて、そうすると a == 1 のときに困る。)
ようするに 75% 以下。実際、α = 1、β = 0 (ようするに、Alice は必ず 0 を Bob は必ず 1 を返す戦略をとると、たしかに 75% になりうることが分かる。)
訳分からんと思った人は、ちょっとトリッキーな方法で書いてしまったからで、考えれば分かるでしょう。
ここではたいしたこといっていない。
ようするに、このゲームは古典的な場合、Alice と Bob は 75% でしか勝てない。それは Alice と Bob がどんなにたくさんのことを伝え合ってもだ。
ええ、古典的な場合は。量子論を使うとこれを 85% ちょっとまであげられるのです。しかし、それにはスピンという概念が必要だ。(続く)
http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p11
((0) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p3)
因果関係と相関関係の違い
以前、NATROMさんの書かれた統計の話がよい資料だと思ったので、この機会に。
http://members.jcom.home.ne.jp/natrom/BloodHokou.html
CHSH不等式(2)
スピンとは何かという質問はとても難しい。これは素粒子にある「ある属性」を指す。「位置、速度」を決めただけでは素粒子の状態は決まらず、その決まっていない自由度の一つが「スピン」というわけだ。身近なところでは、鉄が磁石にくっつくのは鉄の中のスピンが揃うせいだ。
ある種の角運動(回転のこと)のように思えることから spin という名前がついたのだろうが、これを回転だと思うことは僕はあまりよろしくないと思う。そして、あえて答えるとすると、場の量子論が一つの答えだすかもしれない。相対論と量子論とを一番簡単な形で融合させただけで出てくる、二つのものを区別する本質的な何か。
でも、ここではそんなおどろおどろしいものは必要がない。これからの述べる事実を受け入れて欲しい。
スピンというのは「ある方向」で観測することが出来る。ようするにどこにあるかを見ることが出来る。たとえば、時計の(12時-6時)の方向で観測すると、12時の方向にスピンがあるよ、6時の方向にスピンがあるよ、のどちらかが分かる。たとえば12時の方向にスピンがあるときに、(3時-9時)方向に観測すると、50%ずつの確率で3時、9時の方向にスピンがでてくる。
さて、電子を二つ組み合わせて「電子のEPR対」というものを作れる。
この「対」を分けてそれぞれ離れた場所にもって行き、片方を観測するとどんな方向で観測しても半々の確率で出てくる。たとえば、(3時-9時)の方向で観測すると、50%で3時、50%で9時だ。
ところで「対」なのだから、二つ観測できるものがある。まず、両方とも(3時-9時)の方向で観測してみよう。そうすると、片方が3時の時には、もう一方は必ず9時になる。*1
では、一方を(3時-9時)、一方を(12時-6時)で観測したとしよう。片方が3時と出たときに、12時、6時は 50%ずつの可能性で起きる。9時のときも同じだ。
ここで、(3時-9時)の方向を「3時の方向」、3時と出ることを「上」とでる。9時と出ることを「下」とでる。と呼ぶことにしよう。つまり、両方とも「3時の方向」で観測したときには、片方が「上」ならばもう一方は「下」。そして片方が「下」ならばもう一方は「上」。と、必ず逆方向になる。そして、片方を「3時の方向」もう一方を「1時の方向」で観測したときにはどうなるだろうか。実は、逆の向きになる確率は「1時と3時の間の角」を として になるのだ。三角関数分からないっていうならば、図形的にいうと、半径1の時計の1時と3時の目盛りのところを直線で結んで時計の中心から垂線を下ろす。その垂線の長さで作った正方形の面積分。同じ向きになる確率は、、つまり、1時と3時の目盛りの距離の半分が一辺となるような正方形の面積になる。
まあ、そういうもんだと思って。これは量子力学っていうのが正しかったら正しい。そんでもってこいつはかなり大量の実験に裏打ちされているから、あってるんだ。
とりあえず、答えからいこう。まず、Alice と Bob は初めの作戦会議で EPR対を分け合う。
そして、Alice は審判から 0 が来たら「12時方向」に、1 が来たら 「3時方向」に観測し、Bob は審判から 0 が来たら「1時半方向」に、1 が来たら 「10時半方向」に観測する。そして、それぞれ上が来たときに1を下が来たときに0を返す。
さてさて、みなさんおたちあい。
何も情報が伝わっていないのに、あたかも何かが動いたかのように見える。量子テレポーテーションが起きるよ。*2
(続く)
http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p13
((1) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8)
Neo Darwinism
結局、我々が見ている世界って生きるために都合のよいように解釈されたイメージでしかないんだ。本当は原子と原子の間がすかすかでも我々は衝突するのだからいかにも硬いように感じられる。
人が可視光領域だけしか見えないのだって、電磁波は、電波の一部と赤外と可視光と紫外以外は、大気に吸収されて真っ暗だということに関係してる。
我々の意識でさえも結局は微小な中立な揺らぎから産まれたのかもしれないのだよ。
ある意味怖い?
ゆりかごの中の毛布にくるまって、ぬくぬくとしているのもいい。外は荒涼とした世界かもしれない。でも、目を開けてみれば遥かに広々とした美しい世界が広がっている。
ほら、今夜もこんなに月が綺麗じゃないか。
CHSH不等式(3)
復習しよう。
Alice と Bob は仲間で協力する。彼らは相談した後に別室に入る。彼らはこれ以降、相談できない。
すると審判がおもむろに、さいころを振り Alice に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を a とする)を渡す。もう一度、さいころを振り、Bob に半々の確率で {0,1} のどちらかの書かれた紙(この数を b とする)を渡す。Alice と Bob は別室でよく考えて、それぞれ 0 か 1 の書かれた紙を審判に渡す。(Alice Bob の返事をそれぞれ α β とする。)
このときに、a * b が 0 の場合は α != β ならば勝ち、a * b が 1 の場合は α == β ならば勝ち、そうでなければ負けだとしよう。
これが問題だ。
そして、Alice は審判から 0 が来たら「12時方向」に、1 が来たら 「3時方向」に観測し、Bob は審判から 0 が来たら「1時半方向」に、1 が来たら 「10時半方向」に観測する。
これが作戦であった。
さて、審判が(a,b) = (0,0) と送った場合、「12時方向」と「1時半方向」だから、異なる答えを返す確率は85%だ。(a,b) = (0,1) と送った場合、「12時方向」と「10時半方向」だから同じく85%だ。(1,0) でもそうで、(1,1)の場合は「3時方向」と「10時半方向」だから、同じ方向がで85%。
結局、全体で 85% の確率で勝てることが分かった。
さて、これは何を意味しているのだろうか。古典的には Alice と Bob はどんなに入念に作戦を立てたとしても、75% を超える確率で勝てるはずがなかった。ところが EPR対を交換しておくだけで、85%まであげられた。
これはあたかも、片方から片方にどのように観測したかの「情報」が飛んだかのように見える。しかし話はそう簡単ではない。たとえば、相対性理論によればどっちが先におきたか、という概念は見る人によることがある。そのような位置関係に Alice と Bob がいるときにそれぞれが EPR対を観測したらどうなるだろう。ある人は Alice から Bob に情報が飛んだというし、別の人は逆だ、という。これはおかしなことだ。
ここには相関があっただけで、情報は何も飛んでいないのです。
そして、これを説明するためには、「上」と「下」の重ね合わせられていた状態が観測した瞬間に収縮したという考え、あるいはそれに準ずるものを認めないといけないのが分かるでしょう。
(おわり)
((0) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p3)
((1) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p8)
((2) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p11)
((3) http://d.hatena.ne.jp/nuc/20060710/p13)