彼氏彼女の事情

彼氏と彼女という言葉について「20歳程度の極めて新しい語だ」と述べたところ勘違いじゃないかといわれた。こういうときには知り合いに聞く。高校同期で言語学(?)に詳しいのがいた気がすると。
許可を得て転載。

恋人という意味での、彼氏/彼女という言葉が使われ始めたのは、昭和初期くらいからのようです。より細かくいうと、おそらく昭和五年ころから。
(さっき簡単に当時の小説などのデータベースなどを見てみたら、彼女の恋人の意味の初出は昭和6年だった)また、永井荷風が昭和9年に「(恋人という意味の)彼氏/彼女は昔は使わなかった」と書いている。

「彼氏」という言い方は昭和初年に徳川夢声が作った造語で、最初は「he」の意味だったんだけど、おそらく彼女と同じ時期か、ややおくれて恋人の意味ができたよう。

両方とも都市の若者言葉で、いわゆる「昭和モダン」特有の語彙がだんだん一般に広まっていった、ということです。例えば、「かのぢょ:モダン語としては愛する女を意味する」(1931年、『モダン語辞典』)という説明があります。

それとは別なんだけど、現代の若者言葉で「彼氏」を「\__」(「か」が高く、「れし」が低い)のアクセントでなく、「_/~」(「か」が低い)アクセントで発音する流儀はいろんな説があるのですが、平成以降の登場と考えるのが主流です。

なるほど、とてもよく分かりました。
この言葉がわりと新しい記憶があったから
さて、どうしてだろうと思って調べたかったのだが
新しいのはイントネーションだったか。

詳しい説明をありがとう。
あと、丸投げしてしまってすまない。

この前はちゃんと書いていなかったと思うけど,
「彼氏」の新しいアクセントの登場は,
少なくとも江戸時代後期から続いている
日本語の音の体系の変化の大きな流れに完璧に合致するものだそう.

あの後,「彼氏」のあの新しいアクセントがどこから生まれたかという
研究を探してみたのだけれども,なかなかなかったですね.

この用法が始まったと思われる80年代から90年代初めって,
日本語の大規模調査があまり行われていなかった時代で,
結構知りがたい時代だったりする.
逆に戦後すぐの方が,国語改良運動とかの関係で,
いろいろ調査が残っていたりして面白いんだけど.

どうもありがとう。

アクセントの平板化ってことかな??
そう考えてみればなるほど確かに面白い。

そういえば、印欧語族の母音も同じ方向に推移していく
とかいうことを聞いたことがあったようななかったような。

> アクセントの平板化ってことかな??
> そう考えてみればなるほど確かに面白い。
その通り.一般にはアクセントの平板化と呼ばれている現象の一種だね.
厳密に言うと,単語によっては平板にならなかったりするので,
専門の人は,平板化とはあまり言いたくないらしい.
(でも,適切な代替用語が無いので,とりあえず括弧付きの「平板化」と
言っているみたい.)

> そういえば、印欧語族の母音も同じ方向に推移していく
> とかいうことを聞いたことがあったようななかったような。
そういう傾向は確かにある.
でも,そもそも人間は,
口と鼻とノドという非常に狭くて限られたりソースの下で音を発しているので,
出せる音の種類は非常に限られていたりします.
なので,どんな言語も,音変化の道筋として可能なものは非常に限られ,
必然的にどの言語も似通った変化の道を通ることになるとか.