インフレーション

インフレーション理論とは、宇宙初期に急速に大きくなった、という理論である。
では、なぜ急速に大きくなったと考えることになったのだろうか。


この宇宙は見渡す限りほぼ均一で平坦に見える。でも、量子力学によるとこれはおかしい。というのも、ビッグバンに向けてさかのぼると、ある時点で現れる狭い領域では量子揺らぎのために完全に均一にできることができないのだ。それを引き伸ばせば、(物質の密度が)しわしわな宇宙ができてしまう。


ここで発想の転換。そのしわしわな宇宙を思いっきりぐーっと広げる。広げる広げる広げる。そうすると、しわはあまりにも大きくなる。この宇宙に住む人が、しわのサイズよりもずっと狭い範囲しか見えなかったとしたら…
そう、それは光の速度を超えるものがないことからとても自然だ。


もう一回、まとめるとこうだ。ビッグバン直後、宇宙はとても小さかったからどうしてもしわしわができる。でも、現実の宇宙はしわがない。それは、しわのサイズが大きすぎるからだ。しわを大きくするためには宇宙を引き伸ばす、つまりインフレーションしていればいい。
しわ自体はあんまりにも大きすぎて見えない。見えるということは向こうから飛んできた光が目に入ることで、向こうからの光が遠すぎて届いていないところだから。でも、おそらくしわの向こうにはこのあたりの宇宙とはちょっと違う宇宙が広がっているのだろうとは思える。
もちろん、インフレーション理論の観測根拠はまた別のところにあるが、この理論はどんなにあがいても見えない場所まであるであろう、と予測させたのだ。


さて。ナイーブに観測されたものを実在と呼ぶならば、もちろん、この概念は well-defined ではないだろうが、実在に虚構を加えて対称性や構造の美しさを作る、というのは物理が頻繁にとる手法ではないだろうか。