過剰参入定理

ここには書かないつもりだったけれども、いいや書いちゃえ(顔。この「白のカピバラの逆極限 S144-3」はこういう目的のために作られた(人)格なのだから。


以下、結果を見せられた感想を論文から補強したもの。


モデルとしてクルーノーの寡占モデルっちゅうのをとる。
会社が n ある。それぞれが、z_i 生産する。
p を逆需要関数としよう。つまり、市場に x 商品があったときにつく値段が p(x)。
まあ、なんか適切な条件下では Symmetric Cournot Equilibrium (対称クルーノー均衡)というのがあって、すべての会社が同じ生産量作るところで平衡に達する。
状態としては、ある会社が増産すると市場流通量が増えるから価格が下がって利益が減る。逆に減産すると価格の効果が十分でなくて損をする、というところだ。
もちろん、各会社は利潤\{z(n)p(nz(n))-C(z(n))\}を最大化しようとしていると考えている。
このときの会社数に対しての各会社の生産量を z(n) とする。


社会効用 W をW = \int_0^{nz(n)} p(x) dx - nC(z(n))と定義する。
後半は生産コストだから自然。
前半は少しややこしいのだけれども、p(1)っていうのは、1番高くその品物を買う人はp(1)までお金をだしてもいいといっているから、この人はこの品物をp(1)の価値と等価とみなしているってことになる。
2番目に買う人はp(2)までだしていいといっているのだから、……とかんがえていって最後まで行くと積分になる。


また、参入は利益がでているあいだ続くと考える。つまり、\betaという適当な正の数を用いて\frac{dn}{dt}=\beta \{z(n)p(nz(n))-C(z(n))\}。まあ妥当。



で、過剰参入定理というのは、参入に制限をかけるとより社会効用が増えるという定理だ。
だが、参入が止まる企業数と社会効用が最大になる企業数、この二つが異なるのは自明だと思うんだ(。もちろん、価値があるためには自明でない必要があるわけではない)。
というのも、いや、ってういうか一緒になる理由どこにもないし。


その前に、C が線形であったとしよう。こうすると nz を保存する任意の (n,z) の変換に対して任意のパラメータは保存する。
よって、C の非線形nz が保存しないこと(20080811修正)がこの定理に対してきわめてクリティカルであることが容易に分かる。


本題に戻ろう。企業利益が 0 の企業数周辺で企業数を少し変化させたとしよう。
\frac{dW}{dn}=p(nz(n))(z(n)+n\frac{dz}{dn})-C(z(n))-n\frac{d}{dn}C(z(n))
企業利益が0であることから
=p(nz(n))n\frac{dz}{dn}-n\frac{d}{dn}C(z(n))
ちょっと整理して
=n\frac{dz}{dn}(p(nz(n))-\frac{dC}{dz})
=n\frac{dz}{dn}(\frac{C(z(n))}{z(n)}-\frac{dC}{dz}) < 0
というのも、n は明らかに正。\frac{dz}{dn}は負。最後は、マージナルコスト(つまり生産量を少し増やすのにどれだけコストがかかるか)が平均コストより大きいかでこれは「大量生産すればコストが増えるってことはまずなくて、ここが線型だと上の議論から0になって定理が成り立たなくなるから、仮定して」正。
これはまさに企業が増えると生産効率が悪くなる効果を示している。


ここまでは前提を見てちょっと考えたら数式なしでほぼ直感的に分かったが、なぜか次は手を動かさないと理解できなかった。
消した分を戻してやれば常に成り立つ式になっていて、企業が利益を上げるために手を抜く分がひかれていることになる。
逆にいうと、スケールメリットと競争効果(だっけ)のせめぎあいになっている。

さて、なんでこれほど自明な定理が1980年代まで発見されなかったのだろうか。
市場経済を礼賛しすぎるのはアダム・スミスの悪しき影響だと私は考える。有能な何かが効用を最大化する計画をたてれば by definition でそれ以上優れた経済はない。(この場合だったら、一社のみに生産させて、生産量が社会効用を最大にするようにするのが最適な計画だ。)
この定理の発見が遅れたのはこの影響を強く感じる。あとは NASA?
人間の頭のとれる状態は所詮有限だろうから、計画にしても市場にしても厳密にマルコフ過程で記述できるだろう(、もちろん状態空間のサイズを度外視はしているが)。


残念なことに、実際のところこの程度のことができるほどの能力のある人間すらいない、ということはある程度能力のある方々ならよく分かっているだろう。