因果関係論

正しい選挙結果の見方 - 白のカピバラの逆極限 S.144-3

一票の格差も地区ごとの人数の差もないようにすべての都道府県を一人区とみなしたときの選挙結果は、自民党の18議席に対して民主党の55議席と圧勝になる。
だが、二人区ならば公明が3議席分とり、自民34議席、民主36議席。また、三人区ならば、みんなの党と公明が3議席とり、自民が30議席、民主が37議席

ようするに、選挙制度が政治をしているのであって、国民は政治に参加なんてしていないんですよー。

この記事は、選挙結果が出た瞬間に考えたことを id:Chikirin さんの 2010-07-13 記事に触発されて統計処理をしてデータにしたものだ。また、朝日新聞id:Chikirin さんと同じような解析により社説を書いていた。

http://www.asahi.com/paper/editorial20100715.html#Edit2

一票の格差―選挙結果ゆがめた深刻さ

制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。参院選が今回改めて警告している。「一票の格差」が大きすぎる。
今回の選挙区での最大格差は、神奈川県と鳥取県の間の5・01倍だった。神奈川では69万票を集めた民主党候補が落選、鳥取では15万票台の自民党候補が当選した。
大阪や北海道、東京、埼玉、愛知では50万票を超えた人が敗れた。
最少の13万票台で勝てた高知や、20万票以下で当選した徳島、山梨などとの「一票の価値の不平等」は歴然だ。
全選挙区での総得票数と議席数を比べてみても、深刻さが浮かぶ。
民主党は2270万票で28議席を得た。一方、39議席を獲得した自民党は約1950万票にすぎなかった。
民主党は「軽い一票」の都市部での得票が多く、自民党は人口が少なくて「重い一票」の1人区で議席を積み上げた。票数と議席数の関係のゆがみは一票の格差の弊害そのものだ。
選挙区でも比例区でも民主党を下回る票しか集められなかった自民党は、果たして本当に勝者と言えるのか。そんな疑問すら抱かせる結果である。
参院は、いつまでこんな欠陥を放置するのか。2006年の議員定数「4増4減」は、小手先に終わった。各会派でつくる参院改革協議会は、昨年中に出すはずの結論を先送りし、次回の13年参院選に間に合わせたいという。
格差は一刻も早く是正すべきである。ただ、「都道府県別の選挙区」を採るかぎり、人口の差が大きすぎて、十分な「平等」の実現が困難なことはこれまでの経験上はっきりしている。数字いじりだけでは解決にならない。
折しも、衆院でも小選挙区での格差が2倍を超えた昨年の総選挙に対し、各地の高裁で「違憲状態」「違憲」の判決が相次いでいる。
衆参両院の「ねじれ」が再現され、国会がまたぞろ機能不全に陥る懸念も強まっている。
国会が直面する問題の全体像を踏まえて総合的な解決を図るべきである。
衆院のあり方との関係で、参院選挙制度を抜本的に見直す必要がある。併せて、衆参両院の役割分担も一から再考しなければならない。
そうした大掛かりな作業を進めるなかで、投票価値の平等の問題にも迫っていく知恵が求められる。
現状は議員定数削減を唱える声ばかり大きい。「身を削る」姿勢はともかく、総合的な観点を忘れていないか。
国会での格差解消に期待するのは「百年河清を待つに等しい」。最高裁判事の一人がこんな意見を表明してから、すでに6年が過ぎた。
政府が有識者による選挙制度審議会を設け、第三者の視点で具体策を急ぎ練り上げるしかあるまい。次回の参院選はあっという間にやってくる。

だが、id:Chikirin さんや朝日新聞の記事はデータ解析の方法に難がある。選挙区ごとに有権者の数のばらつきが大きいというルールが決まっている以上、大都会の次点候補と地方の当選者を比べれば、前者が勝つに決まっているのだ。

そこで、とった解析手法が、都道府県ごとに一人区であったと仮定して、有権者数に比例した議席を配分するというものだ。分散は十分に小さいのでこれでよい。といっても、何人区かによって有権者の投票行動が変わったであろうという、難点は残っている。



さてさて。



ルールが決まっている以上、「選挙結果が歪められた」というのはおかしいという意見も見えるが、これは憲法の問題である。選挙制度は立法の裁量によって作られるものなので、選挙制度というルールは、サッカーといった競技のルールと異なり、より高次のルールに服するものなのである。
なるほど、「制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。よって、菅直人は責任を取る必要がない」 (と民主党内部の人たちが) というのや「制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。よって、自民党議員は直ちに辞職し議席を返却するべきだ」というのはおかしな議論であろう。だが、「制度の欠陥が、ゆがんだ結果をまた生んだ。よって、選挙制度を見直すべきだ」というのは正統な議論だ。
たとえるならば、相撲を国技でなくすべきか、と、朝青龍横綱に復帰させるべきかを混同してはいけない。



最高裁は、参議院選挙でも徐々に違憲の基準を上げており、ほぼ間違いなく今回は一票の格差違憲判決が出るだろうと考えられている。ここで面白いのが、立法の裁量は一票の格差ではなく、もっと広く選挙制度全体に対して及んでいる点である。一票の格差は、それ単体で問題となるのではない。これは極端な選挙制度の一類型でしかない。つまり、一票の格差問題は、さらに高次のルールに服している。
すでに決まった議席違憲判決によって無効とされた例はいままでにないが、議席が正当かどうかすら憲法で扱える。



そして、私はこの話を因果関係の話に持って行きたかった。選挙の結果は選挙制度と因果関係があるのだろうか。


因果関係は先後関係とは違う。この話は、サッカーワールドカップの日本代表の PK での敗退と絡めると分かりやすそうだ。決して、GK の飛んだ方向が悪いとも、最後のキッカーが入れたからともいわない。つまり、因果関係というのは帰責性や学習のためのパラメータであり、本質的なものではないのですよ。