pentagon

2月の圏論勉強会 - 檜山正幸のキマイラ飼育記 (はてなBlog)
結合法則は重要な性質である。結合法則を満たす2項演算子の作る代数系半群という名前がついていることからもそれは分かるだろう。
もちろん圏論でも結合法則は重要である。しかし、圏論では代入するという概念がないため、\Large (A \otimes B) \otimes C = A \otimes (B \otimes C) のように結合法則を定義できない。あくまでも二つの対象の同型がいえるだけである。ここで二つの対象 A, B が同型であるとは、この二つの対象の間にお互いに逆向きの射 f, g が存在して、\Large f \circ g = id\Large g \circ f = id となることである。
なるほど、この定義ならば、反射律、対称律、推移律を満たしており、普遍性を持つ。同値関係の定義として自然に思える。
ただし、これだけでは、いくつかの対象の間に射を定義して対象の同値関係を生成するには少々困ったことが起きうる。つまり、A, B, C という三つの対象があったときに A から B への同型射と B から C への同型射の合成が A から C への同型射になるとは限らないからだ。このよい性質を "coherence" であるという。
今回の場合、結合法則\Large (A \otimes B) \otimes C \longrightarrow^{\alpha_{A,B,C}} A \otimes (B \otimes C)\Large \alpha_{A,B,C} が同型射であることだけでは足りない。それに加えて、\Large \otimes が双関手であること、つまり\Large id_A \otimes id_B = id_{A \otimes B} であり、\Large (f \otimes g) \circ (h \otimes k) = (f \circ h) \otimes (g \circ k)、また、\Large \alpha が自然変換であること、つまり、\Large \alpha_{A,B,C} \circ (f \otimes g) \otimes h = f \otimes (g \otimes h) \circ \alpha_{A',B',C'} であることが必要だ。
そして、最後に次の図式が可換であることが必要である。
[tex:\Large \begin{array}{ccc} *1 \otimes D \longrightarrow A \otimes *2 \end{array}]
この最後の図式を "pentagon axiom" と呼ぶ。


さて、ここで疑問になるのは、本当に上の等式だけで十分なのかということだ。項がもっと多数存在するときに "coherence" であるという保証はあるのだろうか。


ここで、話を簡便にするために次のような規約を導入する。
n+1 項の積に出てくる演算子をどの順番で結合させたかによって番号をつけ、その番号を並べたものとする。
たとえば、\Large A \otimes ((B \otimes C) \otimes D) ならば (2,0,1) という具合である。さらに紛れがない場合は 012 とも略記する。ここで、0132 や 0231 のように異なれど、同じ積である場合があることを注意しておく。さて、この記法の下では、\Large \alpha 変換とは、差が 1 である数字を入れ替える操作に対応する。
というのではじめやっていたのだけれども、訂正。演算子に名前をつけて、それが計算された順に従って前から並べたものを表現とする。\Large ((A \otimes_a B) \otimes_b C) \otimes_c D ならば abc、\Large A \otimes_a ((B \otimes_b C) \otimes_c D) ならば、bca である。この場合、異なる名前でも同じ積である場合があることを注意しておく。たとえば、acb と cab は等しい。このときは id をアルファ変換の一種とみなす。このときにアルファ変換は隣り合う文字を入れ替える操作に対応する。これを素置換と呼ぼう。またギリシャ文字を適当な文字列の略記とする。


ここで示すべきことは、アルファ変換とその逆の合成のみで作られた domain と codomain がそれぞれ同じな二つの異なる変換が等しいといえることである。
これは domain と codomain が等しい場合、id になることと同値である。また、domain を適当に固定しても一般性を失わない。(インバースが存在し連結であるため。)
上の記法では、ある文字列からスタートして元の文字列に戻ってくるような素置換の列を置き換えていって、最終的に素置換がない状態に必ずできることがいえればよい。


文字列の長さに対する帰納法で解く。
まず、"pentagon axiom" より k=3 のときにできている。(ちなみに、k=4 の場合は切頭正八面体の頂点に文字列が並んでいる形になる。一度描いてみると面白いだろう。)


k 未満で成立しているときに、k での成立を示す。

abc...z という文字列が何回かのアルファ変換の後に abc...z に戻ってきたとする。このときに、先頭の文字が変わっている回数を l 回とする。
さらに l に関する帰納法で解く。
l=0 の場合、これは一番初めに計算される \otimes_a の項をひとつとみなせるので、ひとつめの帰納法の仮定より id と等しい。
l=1 の場合、ありえない。
l が2以上で l 未満で成立している場合、l での成立を示す。

先頭部分は、
\Large ab\rho z \longrightarrow^{\alpha^n} ap \sigma q \longrightarrow^\alpha pa\sigma q \longrightarrow^{\alpha^n} ps \tau t \longrightarrow^\alpha sp\tau t \cdots
となっている。ただし、a と s は同じ可能性がある。
このときに、a,p,s のどれとも異なる文字、x がとれる(なぜなら k>3)。
これは
\Large  \begin{array}{ccccccccccc}ab\rho z & \longrightarrow^{\alpha^n} & ap\sigma q & \longrightarrow^\alpha & pa\sigma q & \longrightarrow^{\alpha^n} & ps\tau t & \longrightarrow^{\alpha^n} & sp\tau t& \longrightarrow^{\alpha^n} & \cdots & \\    & & \downarrow & \begin{array}{ccc} & & \swarrow \end{array} & \downarrow &  & \downarrow & \begin{array}{ccc} \searrow &  &  \end{array} & \downarrow & & \\    & & ap\sigma ' x & \begin{array}{ccc} \longrightarrow^\alpha & pa\sigma ' x & \longrightarrow^{\alpha^n} \end{array} & pa\sigma q & \longrightarrow^{\alpha^n} & ps\tau t & \begin{array}{ccc} \longrightarrow^{\alpha^n} & ps \tau ' x& \longrightarrow^{\alpha^n} \end{array} & sp\tau' x& & \\ & & & \searrow & & p\upsilon x & & \nearrow & & & \end{array}
となる。上段の可換性と同値性は、それぞれ、アルファの自然性、ひとつめの帰納法の仮定、恒等写像帰納法の仮定、アルファの自然性から従う。また、下段はひとつめの帰納法の仮定から従う。
ところで一番下の射を眺めると、これは最後の文字 x が固定しているので、ひとつめの帰納法の仮定より先頭の文字を a から s に直接変えた射と等しいことが分かる。
これで帰納法l-1 (a \neq s) または l-2 (a=s)の場合に帰着できた。

よって、すべての l で成立。

よって、すべての k で成立。

*1:A \otimes B) \otimes C) \otimes D & \begin{array} \longrightarrow (A \otimes (B \otimes C

*2:B \otimes C) \otimes D) \longrightarrow \\ \longrightarrow (A \otimes B) \otimes (C \otimes D) \longrightarrow \end{array} & A \otimes (B \otimes (C \otimes D