手紙

あの家には二人の娘がいた。仮に N ちゃんと M ちゃんとしよう。

私の日本での人間関係は N ちゃんから始まる。最近、Y くんが N ちゃんと一緒に私と初めて会ったときを覚えているといっていた。そのときのことは Y くんにいつか聞いてみたいがそれはまた別の話だ。
子供が飛び跳ねて遊ぶと下の階に響くこともあり、両親達は近所に配慮して上の階の我が家で遊ばせたがった。下が吉田家ならば少々のことは構わないだろうということだった。
ところで、私の家にはアトランタで買った二段ベッドがあった。西欧の文化では赤ん坊のころから子が親と離れて寝る。それを踏襲したのか、わりと早い時期から子供達だけで寝ていたのだ。
ある日、小学校の帰りに疲れて私はベッドの上で眠りにつこうとしていた。ドアフォンが鳴って母が開ける。母は、はいいらっしゃい、といって二人を招き入れた。「遊ぼう遊ぼう」と揺り起こされて、私は N ちゃんをぶった。いや、何も言い訳はすまい。書きたくはないが、その後にびっくりしている M ちゃんも。

二人は泣きながら帰った。
しばらくしてから、まだしゃくりあげている二人は手紙を持ってきた。
そこには

ごめんなさい
でも、K くんのことはまだすきだよ
N & M

とあった。ええ。
私は母に「なぜにごめんなさい」なのかを聞いた記憶がある。


差出人は覚えてもいないであろうこの手紙だが、それは私の心をゆっくりとえぐり、実に17年ものトラウマになっている。

大きくなるにつれて
知識ばかりが
先走って
変にいろいろ
考えすぎるから
身動きが
とれなくなる

世界で一番大嫌い 一巻P.138 (日高万里 白泉社刊)


自分を許すというのは、本当に難しいことだ。